From London Banker to Japanese Hot Spring Innkeeper: A New Zealander's Journey
奥羽山脈のふもと、福島県天栄村の二岐(ふたまた)温泉郷に、漫画家のつげ義春さん(3月に死去)が作品で描いた秘湯の宿がある。
首都圏の客も絶えないが、主人が相次いで体調を崩し、一時は存続も危ぶまれた。
いま、柔らかな笑顔で客をもてなすのは、ニュージーランド出身の男性だ。
英銀行の役員として来日し、東京・六本木で働いていた彼が、どうして山奥の小さな宿のあるじになったのか。
都心の生活、高額な給与
二俣川の渓流沿いに湯が湧き出る。鳥がさえずり、こけむす岩風呂から望むブナの林が目に優しい。
「一瞬で気に入りました」。野天風呂が人気の「湯小屋旅館」新館主、マリオット・フレイザーさん(48)が、勉強中という日本語で言う。「まさに自然の贈り物ですよ」
ニュージーランドの大学院で企業会計学を修めたフレイザーさんは、英バークレイズ銀行に勤め、2015年に日本法人の最高財務責任者(CFO)として来日した。
東京都心の一等地・広尾に住み、職場の六本木ヒルズへは歩いて通う日々。「数字が全て」の世界で休日も出勤し、20年にはアジア太平洋エクイティー・ファイナンス部長を任された。
給与は高額。「不満はありませんでした」
つげ作品そのまま、ファンの聖地に
一方、二岐温泉は幹線道路から遠く、元々県外ではあまり知られていない湯治場だった。



