Quick Look
SAPはAIエージェント戦略において、競合との差別化要因として「データ」と「ガバナンス」を強調。複雑なSAPデータを文脈や依存関係を保ったまま共有する「SAP Business Data Cloud」と、長年培ってきた基幹システムでのガバナンス機能を強みとする。AI採用はソリューションの価値次第で、コンサル向けツールは既に1000社近くが利用。ビジネスモデルも消費量ベースへの移行を進める。
AI-generated summary
Why It Matters
SAPは、企業が機能単位で業務を捉える現状を踏まえ、AIエージェントをドメインごとに整理。既存の役割構造の中で価値を提供し、段階的に自律度を高める設計を採用している。特に「SAP Business Data Cloud」は、複雑なSAPデータのセマンティクスや依存関係を維持したまま共有する「デルタシェアリング」により、急成長を遂げている。
「現在、企業はファイナンスやサプライチェーン、HRなど機能(function)単位で業務を捉えており、この組織構造は当面変わらないだろう。そこで、SAPもドメインをその単位で整理した。500のエージェントをいきなり顧客に提供するだけでは、何をすればいいか分からない」
各ドメインには、業務上の役割(ロール)に応じたJouleのアシスタント機能が用意され、必要なAIエージェントを有効化(アクティベート)することで、業務効率を40~50%向上できるという。このように、まず既存の役割構造の中で価値を出し、段階的に自律度を高めていくのがSAPの設計だ。
「SAP Business Data Cloud」は急ピッチで成長、1年で2000社を超えた理由
自律型エンタープライズの根幹を支える技術の一つがBDCだ。基調講演で、CEOのクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏は「最も成長の速い製品の一つ」と紹介し、その背景にはSAPデータ特有の課題があるとブンゲルト氏は分析する。
「SAPのデータは非常に複雑なテーブル構造を持つ。従来、企業は個別の方法でデータを外部プラットフォームに抽出していたが、その過程でセマンティクス(記述者が表そうとしたデータの意味)や依存関係が失われてしまっていた。BDCはその根本的な問題を解決する」。
具体的には、BDCはデータをコピーするのではなく「デルタシェアリング」(Delta Sharing)によって元の文脈、関係性を保ったままデータを共有する仕組みを持つ。AIエージェントがビジネス全体の文脈を把握し、適切な判断を下すためのKnowledge Graphもここで構築される。エージェントが何をすべきか、すべきでないかなどの判断だ。
このような背景に加え、「SAP Business Warehouse(BW)」のモダナイゼーション先としても評価され、「初年度だけで2000社超が導入した」とブンゲルト氏は明かした。
差別化は「データ」と「ガバナンス」
競合他社もエージェントAI戦略を打ち出す中で、SAPの優位性はどこにあるのか。ブンゲルト氏に聞いてみたところ、次の2点を挙げた。
1点目は正しいデータと正しい文脈だ。「SAPのエージェントはリアルタイムのプロセスデータに直接グラウンディングされている。文脈も、依存関係も、セマンティクスも含めてだ。これは他社には簡単にまねできない」。
2点目はガバナンスだ。エージェントが企業システムで実際に機能するには、SOXコンプライアンスへの対応やアクセス権管理が不可欠だが、SAPはこれを長年基幹システムの中で蓄積してきた。開発環境の「Joule Studio」でエージェントを構築(ビルド)し、管理・統制のコマンドセンターである「SAP AI Agent Hub」で、構築から実行、監視、廃止のライフサイクル全体を一元管理する。この運用体制が、エージェントを企業が安心して導入できる品質にするのだという
AI採用は「価値次第」――コンサル向けツールは1000社近くに
この2年でAIの機能を拡充させてきた結果、実際の採用率はどうなのか。ブンゲルト氏は、そのソリューションの価値次第で大きく変わると述べる。
例えば、文書作成支援のような汎用(はんよう)機能は一定の採用があるものの、P&L(損益計算書)への影響は限定的だ。一方、SAPコンサルタントの業務全体をサポートする「SAP Joule for Consultants」は、「急速に広がり、既に1000社近くが利用している」という。「適切な価値を提供すれば、採用は非常に速く進む。価値が低ければ、そこそこにとどまる」とブンゲルト氏は述べた。
SAPは本イベントで、AIがクラウド移行の後押しになるための施策も発表した。従来クラウド移行を決断してから実際に完了するまでの期間、企業はAIの恩恵を受けられなかった。そのギャップを埋めるために打ち出したのが「RISE with AI」だ。既存のオンプレミスシステムにエージェントがアクセスできるコネクターを提供することで、RISEを使った移行を決定した時点から、移行完了を待たずにAIを活用できるようになる。「移行には時間がかかるが、価値はすぐに得られる」とブンゲルト氏。
早期顧客からの反応は非常にポジティブだという。自律型エンタープライズという新しいビジョンも相まって、クラウド移行の意思決定を前向きに捉え直す企業が増えていると述べた。
ビジネスモデルは「アウトカム」ではなく「バリュー」ベース
AIエージェントの普及に伴い、ライセンスモデルも転換期にある。CROの立場から、ブンゲルト氏はその変化をこう表現する。
「エージェントは(SAPシステムにアクセスする)ユーザーでもある。自律型のプロセスが広がる中で、ユーザー数ベースのライセンスがフィットしなくなっていく」
従来、SAPのライセンスはシステムにアクセスする従業員の数に基づいて課金されている。しかし、エージェントが従業員の代わりにシステムを操作するようになれば、「何人が使うか」という軸では実態を捉えられなくなる。その問いへの答えがConsumption-based(消費量ベース)への移行だ。これは、よく議論される「アウトカムベース」とは一線を画す。
「アウトカムベースの契約は、成果の定義と証明が難しく、多くの企業が試みているが苦労している」とブンゲルト氏。SAPが目指すのは「バリューベース」(value-based)と続ける。
「例えば、ある顧客が年間10万件の設備保全プロセスを持っているとして、それを最適化した場合の価値を算定し、そのプロセス量に応じて課金する。価値創出に連動した価格設定を、標準的なモデルに組み込んでいく考え方だ」
最後にブンゲルト氏は、今回のSapphireの位置付けを次のように表現した。「企業は自律型プロセスがもたらす効率化の恩恵をすぐに得たいと思っている。競争に勝ち残るために、まずは早く取り込んでメリットをいち早く享受する必要がある。SAPはそのような顧客を支えるための準備を整えた」。
What to Watch
AI outlook — possibilities, not facts
SAPのAIエージェントは、既存の役割構造で価値を提供し、段階的に自律度を高めることで普及が進む。
Likely · Medium term
SAPのビジネスモデルは、ユーザー数ベースから消費量ベース(バリューベース)へ移行する。
Very likely · Long term
Open Questions
- AIエージェントの具体的な導入事例と成果
- 消費量ベースの課金モデルの詳細
- 競合他社のAI戦略への対抗策






