成城大学渡邊隼史准教授のプレプリント論文により、古墳の体積分布が現代企業の売上と同様にジップの法則に従うことが示唆された。文字や貨幣経済が成立する前の古代日本でも、資源の上位集中構造が存在していた可能性を示す。近畿地方や吉備を含む山陽地方ではさらに強い集中が見られ、規制産業と類似するパターンが確認された。
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現代の経済社会では、企業の売上高などがジップの法則に従うことが知られているが、これまで貨幣経済や文字による行政記録、税制といった制度が整った社会のデータでしか確認されてこなかった。
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「リソースの上位集中」は文字・貨幣が根付く前からあった? 成城大准教授が古墳の体積から導出
成城大学の渡邊隼史准教授が発表したプレプリント論文「Zipf’s law before the monetary economy and written administration: volume distribution of kofun, ancient Japanese burial mounds」は、古代日本における集団の資源動員力の集中構造を数理的な視点から解き明かした研究報告だ。
現代の経済社会では、企業の売上高などが「ジップの法則」(Zipf則)に従うことが知られている。売上の大きい順に並べると、ごく少数の巨大企業が全体の大きな割合を占め、その減り方は「べき乗則」(累積指数がほぼ1になる形)というパターンを示す。一方、残る大多数の企業は「対数正規分布」(対数をとると釣鐘型になる分布)でよく説明できる。
こうしたジップの法則型は、これまで貨幣経済や文字による行政記録、税制といった制度が整った社会のデータでしか確認されてこなかった。
では、そうした制度がまだ確立していなかった古代社会でも同じ分布のかたちが現れるのだろうか。この疑問を解き明かすため、本研究では3世紀半ばから7世紀にかけて日本に築かれた古墳に着目した。
研究では全国の古墳データベースを活用し、墳丘の長さや高さなどから体積を推計している。なぜ古墳の体積を調べるのかというと、体積はその古墳を造った集団が動員できた人手と資源のおおよその目安になるからだ。
参照したのは奈良女子大学の全国古墳データベース(2025年3月版)で、前方後円墳4545基などについて墳丘長や高さから体積を推定した。
この体積のばらつきを全国規模で分析した結果、前方後円墳の体積の分布が、中間層では対数正規分布を描き、上位の巨大な古墳群では累積指数がほぼ1のべき乗則に従うという、現代企業の売上分布と同じジップの法則に当てはまることが示唆された。
さらに、時代や地域ごとの違いを分析したところ、全体の規模感(体積の絶対値)は変動するものの、中央値で正規化してスケールの違いを補正すると、多くの地域の分布が共通の曲線に重なることが分かった。
ただし例外もあり、当時の政治的中心地であった近畿地方や、準中心的な存在であった吉備を含む山陽地方の一部などでは、指数が1を下回り、少数の巨大古墳へ資源がさらに強く集中している傾向が見られた。
現在企業の産業別の解析でも、多くの産業ではジップの法則が観測される一方、電気・ガス・熱供給・水道業や金融業などの規制産業の分布では近畿のような例外的な上位企業への集中が観測される。
これらの結果は、文字や貨幣経済が社会の中心的な制度として定着する前の古代日本においても、集団が動員した資源の分布が、現代企業の売上分布と統計的に同じ構造をもっていた可能性を示している。
Source and Image Credits: Watanabe, Hayafumi. “Zipf’s law before the monetary economy and written administration: volume distribution of kofun, ancient Japanese burial mounds.” arXiv preprint arXiv:2606.25303 (2026).
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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